「試算表は毎月もらっているが、正直よくわからない」
多くのオーナー経営者がそう感じています。税理士に任せておけば申告はできる。でも、自分の会社の財務状態を自分で読めない状態は、経営判断の精度を下げます。
財務三表——貸借対照表(BS)・損益計算書(PL)・キャッシュフロー計算書(CF)——は、それぞれ異なる角度から会社の財務状態を示しています。3つの関係を理解すると、「なぜ黒字なのに現金がないのか」「会社の財務は健全なのか」といった問いに自分で答えられるようになります。
この記事では、財務三表の関係を経営者向けに整理します。
財務三表はそれぞれ「何を見るための書類か」
まず、3つの書類が何を示しているかを整理します。
損益計算書(PL:Profit and Loss Statement)
一定期間(通常1年間または1ヶ月)に、会社がいくら稼いでいくら使ったか——つまり「経営の成績表」です。
売上から費用を引いた結果が利益(または損失)として示されます。
貸借対照表(BS:Balance Sheet)
ある時点(通常決算日)における会社の「財産と借金の状態」を示します。
左側に資産(持っているもの)、右側に負債(借りているもの)と純資産(自己資本)が並びます。左右は必ず一致します。
キャッシュフロー計算書(CF:Cash Flow Statement)
一定期間に、現金がどのように動いたかを示します。
営業活動・投資活動・財務活動の3つに分けて、現金の増減を記録します。
3つの書類が示す「時間軸」が違う
財務三表を理解するうえで重要なのは、それぞれが異なる時間軸を持っているという点です。
- PL:ある期間の「フロー(流れ)」を示す
- BS:ある時点の「ストック(残高)」を示す
- CF:ある期間の「現金の動き」を示す
PLは「今期どれだけ稼いだか」、BSは「今この瞬間、会社はどういう状態か」、CFは「今期、現金はどう動いたか」——この違いを意識するだけで、3つの読み方が変わります。
なぜ「黒字なのに現金がない」が起きるのか
財務三表の関係を理解するうえで最もわかりやすい例が、「黒字倒産」と呼ばれる状態です。
PLでは利益が出ている(黒字)なのに、手元の現金が底をついて倒産する——これは、PLとCFが別の動きをするからこそ起きます。
なぜPLとCFが乖離するのか。主な理由は3つです。
売掛金の存在
売上はPLに計上されますが、現金が入金されるのは後です。100万円の売上を計上しても、入金が翌月なら今月の現金は増えません。売上は立ったが現金はまだ来ていない——この状態がPLとCFの乖離を生みます。
借入返済はPLに出てこない
借入の元金返済は、PLには費用として計上されません(利息は計上されます)。しかし現金は確実に出ていきます。毎月100万円の返済をしていても、PLにはその100万円は出てきません。だから「PLでは黒字」なのに「現金が減っている」状態が起きます。
減価償却は現金を伴わない費用
設備を購入したとき、現金は一括で出ていきますが、PLには数年に分けて費用として計上されます(減価償却)。逆に言えば、減価償却費はPLに費用として計上されるが、現金の流出は伴わない費用です。
これらの違いを理解することで、PLだけ見ていては会社の実態を把握できない理由がわかります。
BSとPLはどうつながっているか
BSとPLは、「純資産」という項目でつながっています。
PLで計算された当期純利益は、BSの純資産の中の「利益剰余金」に加算されます。赤字(純損失)なら利益剰余金から差し引かれます。
図で示すとこうなります。
【前期末BS】 【今期PL】 【今期末BS】
資産 売上 資産
現金・預金 − 費用 現金・預金(変化)
売掛金 = 当期純利益 売掛金(変化)
固定資産 ↓ 固定資産(変化)
負債 この利益が→ 負債
借入金 借入金(変化)
純資産 純資産
資本金 資本金
利益剰余金 +当期純利益→ 利益剰余金(増加)
つまり、PLで良い業績を上げ続ければ、BSの純資産(自己資本)が厚くなっていきます。逆に赤字が続けば純資産が減り、最終的には債務超過(負債が資産を超える状態)になります。
BSとCFはどうつながっているか
CFの末尾に出てくる「現金及び現金同等物の期末残高」は、BSの「現金・預金」と一致します。
CFは「期首の現金残高からスタートして、期中にどう動いて、期末にいくらになったか」を示します。その期末残高がBSの現金・預金の数字になります。
CF計算書
期首の現金残高(= 前期末BSの現金)
+ 営業活動によるCF(本業での現金収支)
+ 投資活動によるCF(設備投資・売却など)
+ 財務活動によるCF(借入・返済・増資など)
= 期末の現金残高(= 今期末BSの現金)
PLとCFはどうつながっているか
間接法で作成されるCFの「営業活動によるキャッシュフロー」は、PLの当期純利益を出発点として、現金の動きとのズレを調整することで計算されます。
営業CFの計算(間接法の概略)
当期純利益(PLの数字)
+ 減価償却費(現金を伴わない費用なので加算)
− 売掛金の増加分(売上は立ったが現金未収なので減算)
+ 買掛金の増加分(費用は計上したが現金未払いなので加算)
± その他の調整
= 営業活動によるキャッシュフロー
PLで利益が出ていても、売掛金が増えていれば営業CFはその分小さくなります。逆に減価償却費が多い会社は、PLの利益より営業CFが大きくなることがあります。
経営者が3つの書類をどう使い分けるか
財務三表の全体像がわかったところで、経営者として何をどう見ればよいかを整理します。
PLで確認すること
- 売上は計画通りか
- 粗利率に変化がないか
- 固定費が増えていないか
- 当期純利益は出ているか
PLは「今の稼ぐ力」を示します。毎月の試算表でPLを確認することが、経営管理の基本です。
BSで確認すること
- 現金・預金の残高は十分か
- 売掛金が膨らんでいないか(回収できていない売上が増えていないか)
- 借入残高は返済できる水準か
- 純資産(自己資本)は増えているか、減っていないか
BSは「会社の健康診断」です。決算時に必ず確認し、前期末と比較することで財務の変化が見えます。
CFで確認すること
- 営業CFはプラスか(本業で現金を稼げているか)
- 投資CFの内容は何か(何に投資しているか)
- 財務CFはプラスかマイナスか(借りているか返しているか)
CFは「現金の実態」を示します。PLが黒字でもCFがマイナスなら、現金の手当てが必要なサインです。
経営者として最低限持っておきたい3つの視点
財務三表の細部まで理解する必要はありません。ただし、以下の3つの視点は経営者として持っておくべきです。
① PLの利益とCFの現金は別物だと知っている
「今期は黒字だから資金は大丈夫」という判断は危険です。利益と現金は連動しないことを理解したうえで、手元の現金を別途確認する習慣が必要です。
② BSの純資産が増えているかを毎期確認する
純資産は会社の体力です。毎期利益を出して純資産を積み上げている会社は財務的に安定します。純資産が減少傾向にある場合は、早めに原因を探る必要があります。
③ 営業CFがプラスかどうかを確認する
本業で現金を稼げているかどうかは、営業CFのプラス・マイナスで判断できます。PLが黒字でも営業CFがマイナスなら、現金の回収に問題がある可能性があります。
数字を読む力は、経営の判断精度に直結する
財務三表を税理士任せにすることは、決算申告の面では問題ありません。しかし「自社の財務状態を自分で理解できない」状態のまま経営判断をすることは、リスクを伴います。
BSで自己資本が薄くなっていることに気づかない。PLが黒字でも現金が苦しくなる理由がわからない。CFがマイナスでも気にしない——こういった状態が続くと、問題が深刻になるまで手を打てないことがあります。
自社の財務三表の読み方や、数字を経営判断に使える形に整理することについては、財務健康診断からご相談ください。